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『インド風カリーライス』のイノベーション

飯田哲夫(Tetsuo Iida)   2006年1月14日

先日、同僚のM君と日本橋にある『インド風カリーライス』なる店へ行った。ただ、果たしてこれが店名であるのかは判らない。なにせ、激しくツタの絡まるこの店には、『インド風カリーライス』と『珈琲』という、品書きのような看板が二つ外壁に取り付けられているだけで、果たしてどちらが店名なのか判らないのである。しかも、一度座れば、一言も発せずとも、名物の激辛スープカレーが勝手に出てくる。コーヒーが供されているのかも甚だ疑問だ。

聞くところによると、この『インド風カリーライス』は、日本橋で50年来変わらぬ味でカレーを出し続けているらしい。しかし、一方でインドのIT業界は、このカリーライスとは反対に、急速にイノベーションへの道を進み始めている。

クリステンセンがタタへ

クレイトン・クリステンセンと言えば、有名な『イノベーションのジレンマ』の著者であり、ハーバード・ビジネス・スクールの教授でもある。クリステンセンは、その著作にて、いかに顧客へ忠実な優良企業が、クリステンセンの言うところの"Disruptive Technology"によって衰退させられるかを説き、イノベーションに対する新しいアプローチを提唱した。

インド系ITベンダーの雄であるタタ・コンサルタンシーが、そのクリステンセンを社外取締役に任命したという(Finextra)。最近では最早単なる低コストのアウトソース先とは言えないほどの実力を付けて来たインド系ベンダーであるが、今回の動きはまさにそれを象徴していると言えるだろう。

インド系ITベンダーは、これまでは主として欧米にて開発された技術をベースとして、より低コストのサービスを提供してきた。しかるに、欧米大手ITベンダーに伍する実力を付けるに至り、いよいよ自らがイノベーションの源とならない限り、更なる成長は無いという認識があるに違いない。

日本を振り返って

日本という国は、戦後に基礎研究の牙を抜かれ、応用研究に集中せざるを得なかった。従って、欧米の基礎研究の成果をベースとして、それを応用することで経済発展を遂げてきた。しかし、最早参考とするものもなく、自らが基礎研究に取り組むことが求められている。しかし、ソフトウェアの領域ではこうした取組みが非常に遅れているのが現実だ。

日本のソフトウェア産業は大手ベンダーの寡占が進行しており、資本規模で上位25%が80%の売上を占めるような構造となっている。これは、決して技術的な革新が起きやすい環境とは言えない。むしろ、気をつけないとイノベーションのジレンマに陥り易い状況と言えるだろう。

ジレンマの解き方

そんな中、ソフトウェア産業においては、やはりオープンソースのコミュニティが"Disruptive Technology"の担い手となるのではないかという期待感がある。必ずしも、要求の厳しい大手顧客は満足させられないし、処理パフォーマンスも十分ではないところからスタートするのが、オープンソースである。しかし、クリステンセンは、こうした特性を持つ技術が、既存の技術を凌駕すると説いている。一文引用しよう。

There are times at which it is right not to listen to customers, right to invest in developing lower-performance products that promise lower margins, and right to aggressively pursue small, rather than substantial, markets.

(The Innovator's Dilemma, Clayton M. Christensen, HarperBusiness Essentials)

まるでオープンソースのことを話しているかのように読めるのである。(ただ、ここで"customer"とは、あくまでハイエンドの顧客と読まなくてはいけない。)つまり、イノベーションのジレンマの解き方も、我々のインダストリーでは、我々なりの解釈が必要だろう。

ところで、『インド風カリーライス』にはイノベーションの気配が全く無い。私が思うに、この中毒性を持つ辛さは、50年に渡って"Disruptive Technology"であり続けているのに違いない。もしビジネスでお困りなら、まずは食べてみるしかないでしょう。住所は日本橋室町3-4-1。千疋屋のはす向かい。辛いですぞ。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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