Googleですら従業員を管理するのか?

May 10, 2008 11:31 PM
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この記事に接したのが丁度ゲイリー・ハメルの『経営の未来』を読み終えようとするときだっただけに、結構驚いたのである。その記事とは、『シュミットCEO:「従業員を管理できない」--グーグル、雇用ペースを減速へ』と題するCNETのエントリーで、以下のようなCEOのコメントを掲載していた。

Schmidt氏はCNBCのインタビューで、「いくつかの理由により、雇用ペースを減速した。最大の理由は、従業員が何をやっているのか管理できなくなってきたと感じ始めたからだ」と語った。「誰が何をやっているのか、従業員が何をやっているのかを把握するためのわれわれのシステムが、すばらしい人材を採用するペースに追いついていない」(Schmidt氏)

グーグルが従業員を管理するということ
この記事の時点でグーグルの従業員数は1万9156人だというから、普通に考えればしっかりとした従業員の管理システム、つまり一般企業であれば、勤怠管理、指揮系統、給与、福利厚生、評価、社員スキル、などなどが十分に備わっていないとなれば、さすがのグーグルもグローバルな人員の急増はちょっとしんどいかと思ってしまうところである。

ところが、この記事にやや過剰に反応してしまったのは『経営の未来』においてゲイリー・ハメルはグーグルを取り上げて、従業員を管理しないそのマネージメント・スタイルこそがグーグルの成功の源泉であると賞賛しているからである。いくつか象徴的なテキストを引用してみよう。

グーグルが特異な存在になっているのは、そのウェブ中心のビジネス・モデルのおかげというよりも、同社の無秩序に近い経営管理モデルのおかげである。(128ページ)
モティベーションの高い、とびきり優秀な連中が共通のビジョンを持っている場合には、彼らを細かく管理する必要はない。これはグーグルが早いうちに学んだ教訓である。(140ページ)
いついかなる時をとってみても、一定数の社員が「コントロールの及ばない」状態にあるということでもある。それでいいのだとシュミットは言う。「完璧な秩序を望むのなら、海兵隊に入ればいいんだから」と。(143ページ)

シュミットのコメントにも見られるように、管理が十分に出来ないことを良しとしているのは、単なるゲイリー・ハメルの思い込みではなく、グーグル自身なのである。ここへ来て、管理が出来ないので社員の採用を減速させたいというCEOのコメントはどのように理解すれば良いのだろう? 

マネジメント・イノベーション
ゲイリー・ハメルの『経営の未来』という本も実に面白かったのでちょっと紹介したい。ハメルはそもそも現在MBAなどで教えられるマネジメント、つまり階層型の組織を作って、それをいかに効率的に運営するかということ、はたかだか1世紀程度の歴史しか無いもので、それを金科玉条の如く信じるのは大きな間違いであると言う。これだけ技術的なイノベーションが活発な中で、マネージメントは明らかにイノベーションを必要としているのだと。特に外部環境の変化そのもののスピードが従来よりも明らかに早まっている以上、それに適応できるマネージメントを実現できることが、最大の競争優位であるとする。

そうした中、そのイノベーションの実例として、グーグル以外にもホールフーズ・マーケット、W・L・ゴアを取り上げる。これらの企業の特徴は、効率性を優先して従業員の管理を強化するのではなく、むしろフラット化した組織において従業員が創造性を発揮して業績に貢献するマネジメントを実現していることである。面白いのは、これらの企業が研究対象ではあり続けるものの、なかなか模倣の対象とはならない事だろう。そう簡単には真似出来ないのである。故に競争優位の源泉なのだ。

そして、ハメルは適応力のあるマネジメント・モデルを考える参考原理として、「生命」の持つ多様性、「市場」の持つ効率的な資源再配分、「民主主義」の参加型モデル、「宗教的信仰」の使命感、「都市」が持つ偶発性といったものを取り上げる。つまり、これらの原理を次世代のマネジメントに取り込めと。

ハメルは最終章において、「マネジメント2.0」は、「ウェブ2.0」に似たものになるだろうと予測する。特にウェブが階層構造を持たずに管理されている点に、マネジメントの未来を見ている。ただし、今の経営者はウェブを新しいビジネスチャンスとは見ても、これが既存のマネジメント・モデルを破壊するものであるとは誰も見ていないだろうと嘆いている。

改めて、グーグルが従業員を管理するということ
では、グーグルは規模の拡大の結果として、やはり従来型のマネジメント・モデルを必要とすることに気付いたのだろうか。そして、グーグルもイノベーションの速度を落とし、これまでのように新しいサービスを次々と生み出すことは出来なくなるのであろうか? あるいは、管理が出来ないというのは単なる逃げ口上で、本当はいかに従業員の創造力を損なわずに、マネジメント2.0を実践できるかに挑戦しているのだろうか?

シュミットが管理しないことの重要性を認識している以上、恐らく後者なのであろう。2万人に到達しようとする規模において、従来型の企業が持つような管理体系を持たずにどのようにして企業を成長させ続けるのか、まさにハメルの言うところのマネジメントのイノベーションがリアルタイムで実験されているのがグーグルと言えるだろう。それが成功するのか失敗するのか、我々はリアルタイムでケース・スタディを追いかけることが出来る。

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プロフィール
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。92年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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