コンセンサスと経験則 ― 変化から目を背けさせるバイアス

2007年09月25日 09:00
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毎週エントリーするつもりだったのに、新製品の記者発表会など立て込んでいて、さっそく遅れてしまいました。ZDNet さんも記事にしていただきましたが、コンサバだなあ。日経 BP や IT Media のほうがもうちょっと積極的な感じが ・・・ まあいいです、このブログがプロモーションとのバーターじゃないことの証拠にはなりますし。さて本題に入りましょう。

コンセンサスとは、総意、暗黙の了解。日本人は、教育も文化的背景もそんなには違わないですから、気付かない間にいろんなコンセンサスに縛られています。コンセンサスから外れる人は、危険因子なので排除される。ひょっとしたら貴重な才能をつぶしているかもしれないけど危険も回避できるし、どちらもごく少数派なので、リスクマネジメントとしては正しい選択。そして私にも、日本人のコンセンサスが刷り込まれているんだなあ、と、先日の世界柔道を見ていて実感しました。

監督だったでしょうか、微妙な判定が続いたことについて 「こんなの柔道じゃねえ」 という発言がありました。私は知らなかったのですが、国内の柔道では、もうほぼやられたも同然の 「死に体」 からの返し技は認められないものだそうです。確かに、命をかけた戦いならば死に体からの返し技なんてできないし、潔い行為ではありませんね。だから、その瞬間は私も同意して 「そんなの柔道じゃねえなあ」 と思ったんです。

しかし、柔道=武道=潔い、は日本文化に根ざしたコンセンサスであり、スポーツではルールぎりぎりで競技するのが当然です。潔さがあってこそ柔道というのなら、ルールに明文化する必要があります (柔道に詳しくないのでそういうルールがあるのならごめんなさい。結果から推測しているだけです)。裏を返せば、潔さが日本文化としてのコンセンサスだと理解していれば、今回のことはとうに予測可能だったということです。国際柔道連盟の役員改選で日本人役員がいなくなった、なんて話もありますが、いずれにせよ、なぜいまさらそんな話になるんでしょう。

コンセンサスのもとでは、「経験則」 が非常に有効に働きます。分析学の言葉ではヒューリスティック (Heuristic: 発見的) という言い方があり、IT の世界では、たとえばスパムフィルタだとか検索エンジンのような、確率分類の 「マイニング」 アプローチがヒューリスティック。ちなみに対義語はデターミニスティック (Deterministic: 決定論的)、ウィルスチェックのようなパターンマッチングがこれです。さて経験則では、経験の積み上げが大事。マイニングでもモデルのトレーニングがあってこそ、新しいデータでもサクッと分類できるのです。でも、経験を共有できない相手や未知の事柄に対しては通用しません。

柔道が国際的に普及していく初期段階では、精神性や形式美、発祥の国の文化が尊重されていたでしょう。しかし、柔道人口が増え、文化から純粋なスポーツへ発展する過程で、その精神性とスポーツとしての楽しみ方が分離されていくのは仕方ないことです。ヨガなんてまさにそうでしょ?ところが日本の柔道関係者は、日本文化のコンセンサスの上に築かれてきた柔道に対するヒューリスティックに縛られています。だからこそ、柔道の精神性は柔道を志す者にとって暗黙の前提であって、その前提を理解できない者は柔道をする資格がない、と思っている。国際舞台が大きくなり、急激に柔道人口が爆発、いろいろな面でお金になるスポーツになると、興業性や、ルールの分かりやすさなどが重視されるようになり、暗黙のコンセンサスは受け入れられなくなります。このような変化は、柔道人口がある臨界点に達した時に急激に起きたと思われますが、固着性 (anchoring) ヒューリスティックと呼ばれる、新しい事実の判明に対しても漸次的にしか行動を変更できない、という心理的傾向により、日本と世界の認識の差が一気に拡大したのでしょう。

ビジネスにおいても似たような状況が発生していませんか。国内マーケットが確実に縮小しつつある中で、消費と売上、低価格とコスト削減といった、顧客と企業のコンセンサスは崩れてきています。顧客の関心は購買そのものではない、たとえば清潔だとか安全だとか、2次的な価値に目が移りがちですが、そこは未知の領域。顧客自身でさえも明確にニーズを意識していません。だから、ちょっとした流れを作ったり、増幅したりできる人や企業が、大きな変化を起こし、勝利を手に入れる時代です。

さて、この前人未到の領域に、そして世界レベルの競争に、はたして日本人は耐えうるのでしょうか?今までのように、日本自身のマーケットを背景とした成長は望めません。でも、米国、中国、インドのような、膨大な人口を持ち、強烈な才能が政治や経済をリードすることを許容するこれらの国と、真っ向勝負なんてできるでしょうか?たとえ教育や社会を変えて多様性を重視したとしても、強烈な才能の 「人数」 ではかなうわけありませんし、格差社会って、せちがらくてイヤなんですよねえ。日本人は個性を磨くより組織力を磨いて競争力をつけたほうがいいと思いますが、どうでしょう。言いすぎですか?

米野宏明@マイクロソフト

※ 本エントリーの内容は筆者個人の見解に基づいており、マイクロソフトの見解を示すものではありません。

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プロフィール
米野宏明(Hiroaki Komeno)
マイクロソフトのBI関連製品担当プロダクト マネージャ。慶應義塾大学商学部 卒業後、直接金融時代の到来を予期して証券会社に入社するも、時代が早すぎた ようで3年で挫折、手に職をつけるため一念発起してITベンチャーに転身。デー タベース製品の営業、マーケティング、SEと幅広く経験するも、当該製品の開発 元が買収されたことをきっかけに諸事情あってやむを得ずマイクロソフトに移籍。 チャネルマーケティング、コンサルティング営業を経て現在に至る。経産省認定 テクニカルエンジニア<データベース>。日本CFO協会主任研究委員。
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