見える化ツールは現場力を向上できるか

2007年10月08日 18:30
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このエントリーは、「見える化」 自体への反論でも自虐ネタでもありません。先日知人に “最近やたらに 「XX の見える化で XX 現場力を向上」 というタイトルの IT セミナーが多いですね” と言われました。私自身はこのキーワード、それを標榜する外部セミナーに呼ばれて出演する時以外には使ったことがありませんので、他の人たちはどういう文脈で使っているんだろうと眺めてみたところ、どうも矛盾が多い気がしたのです。

さすがに 2.0 はかなり減りましたが、見える化は今まさに花盛り。こういう具体性のないキーワード、ほんと皆さん好きですよねえ。突っ込んでみると今まで言っていることとぜんぜん変わらないのに。まあそれはさておき、はたして、「見える化」 ツールにより 「現場力は向上」 するのか?今回はこれを BI 的アプローチにて検証してみようと思った次第。「見える化 セミナー」 で検索してみました。

「見える」 → 「現場の意識改善」 → 「現場力向上」 というのが大方のフレームワークのようです。実はこれ、前回も触れました 「バランス スコアカード」 が言っていることと全く一緒。バランス スコアカードがはやらなくなってきたところでちょうどいいキーワードが出てきたので、タイトルだけ変えてちょいと味付けし、新しいソリューションの出来上がり。我々 IT ツールベンダーからすると、実に都合のいいキーワードです。こりゃ確かにセミナータイトルに使いたくなりますわ、前言撤回します。

では改めて先ほどの式、「見える」 → 「現場の意識改善」 → 「現場力向上」 が成立するかどうか考えてみます。原因と結果の間の中間層を設定し、個々の因果関係を明らかにするのが分析の基本。

「現場の意識改善」 → 「現場力向上」 はまず間違いないでしょう。現場の意識が改善されることで、現場が自らいろいろ考えるようになる。それこそトヨタのカイゼンがまさにそうですが、顧客接点や問題が起きている現場が考えるからこそ、スピーディかつ高品質な意思決定ができるというもの。ならば、「見える」 → 「現場の意識改善」 が成立するのか?

この式が成立するならば、「現場の意識が低い」 → 「見えない」 も成立するはずです。具体的な事例をあげると差し障りがありますが、過去に倒産した金融機関や小売店は、現場に売り上げ状況などが伝わっていなかったということですかね?ここはまだ怪しいなあ。今度時間があるときちゃんと 「見える化」 本読んでみよう。実は、ノウハウ系や平積みになっている本は買わない主義なので、今まで読んだことないんです。今更買うのも恥ずかしいな、誰かに借りようか。

少なくとも Web で公開されている情報を見る限り、それらが言うところの 「見える」 状況が 「見る」 行為を促進する、というイメージが、どうもしっくりきません。トヨタだって現場の改善文化があるからこそ、見る必要があって、すぐに見える状況を作ったわけです。その他の例もみんな、問題意識のほうが先ですね。中には、IT による情報伝達経路とスピードの変化が組織構造の変化をもたらした例を、さも見える化の効用のように言っているヒドいものまで混ざっています。こういうベストプラクティスものには注意が必要。理由は後付けでいくらでもハメられますから、必要条件か十分条件かの見極めが重要なのです。その話はまた別の機会に。

どうも、「見たいと思う」 → 「見える」 → 「現場の意識改善」 → 「現場力向上」 という式が必要に思われます。最初のものが新規追加。家に帰ったら惰性でテレビをつけるのと一緒で、いくら目立つところに見えていても、それが能動的に見るという行為にはつながらないはず。見たいと思うことがまず必要、つまり、「見える」 というのは、「見えている」、 じゃなくて 「見ることができる」 であるべき。

おや?「見たいと思う」 と 「現場の意識改善」 は同じようなものですね。「現場の意識改善」 と 「見える」 はスパイラル的に相互作用を及ぼすでしょうから、事例で言われているように、ある特定の瞬間においては 「見える」 → 「現場の意識改善」 が見られるかもしれません。ですが、ベースには 「現場の意識改善」 → 「見える」 → 「現場力向上」 の流れが必要なはず。だとすれば、現場の意識改善モチベーションを与えるための仕掛けを用意しなければなりません。

もちろん IT ですべてが解決できるものではないですが、まずは見ることが 「できる」 という 「権限」 と、それをもとに戦略を実行する権限、そしてそれが評価される仕組みが重要なのではないでしょうか?「見える」 という 「状況」 が 「与えられる」 ことで何かが変わるとは思えないのです。だから私自身は今後も 「見える化」 というキーワードは使わないと思います。

米野宏明@マイクロソフト

※ 本エントリーの内容は筆者個人の見解に基づいており、マイクロソフトの見解を示すものではありません。

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プロフィール
米野宏明(Hiroaki Komeno)
マイクロソフトのBI関連製品担当プロダクト マネージャ。慶應義塾大学商学部 卒業後、直接金融時代の到来を予期して証券会社に入社するも、時代が早すぎた ようで3年で挫折、手に職をつけるため一念発起してITベンチャーに転身。デー タベース製品の営業、マーケティング、SEと幅広く経験するも、当該製品の開発 元が買収されたことをきっかけに諸事情あってやむを得ずマイクロソフトに移籍。 チャネルマーケティング、コンサルティング営業を経て現在に至る。経産省認定 テクニカルエンジニア<データベース>。日本CFO協会主任研究委員。
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