文書には意思が宿ります。たとえば売上実績、気圧や湿度など、誰が見ても同じ客観的事実を表現する 「データ」 に対して、それらを再編した文書、たとえば業績概況レポートや天気図には、それを作成した人の経験や見識、主観が必ず入り込みます。だからこそ、データ、すなわち純然たる事実を中心として意思決定力を向上させようとする BI のアプローチが、この情報過多の時代に注目を浴びるのでしょう。ただし従来のような、限られた情報から予測を導き出すものではなく、あふれる情報を選別し真実に近づくための BIです。環境が大きく変化していることを理解できない人は、ゴテゴテとした BI アプリの 「機能」 に頼ってしまい、結局使いこなせなくて後悔します。情報が生み出す意思(=価値)の流れを中心としたシステムへの発想の転換が必要です。
個人の日常の意思決定においても同じことが言えます。ビジネス外では客観的なデータが不足するため、情報源は文書に偏りがちになります。近年は検索技術が発達していますし、あらゆるレベルの情報発信が盛んですからなおさらです。しかし文書には意思が宿っていることに気をつけなければなりません。
同じ方向性の意思を持った人たちが集まると、そこでは意思が増幅されていきます。正義が増幅されすぎて外部の常識と大きくかい離すると、善意の団体がラディカルな圧力団体へと変わっていきます。アンチの対象に自己のアイデンティティを依存するという矛盾に気づかず、無限スパイラルが構成されるのです。そして増幅された正義は外部に対する悪意となって吐き出されていきます。バーチャルな世界では人が直接言葉を交わすことがありませんが、かわりに文書が意思を媒介します。掲示板から個人のブログまで、文書のコミュニケーションが発生する場所では、同様の増幅があちこちで見受けられます。やはりその多くは、善意や危機感といった正義から始まっているものです。外部の特定のサイトを名指しするのもさしさわりがあるので、身内の話でお恥ずかしい限りですが、たとえばこんな例があります。
活を入れるためと、と、マイクロソフト製品の機能や品質に関する問題をブログに書き連ねる OB がいます。書いていることは正しいはず、実際に使った上でのレポートですから。私も一製品担当者として、いただいたご意見には真摯に対応する所存です。しかし問題なのは、そこに組織の事情や社員のマインドなど妙な憶測をつけていること。真実のほどはわかりません、たぶん当たっていることもあるでしょう。さてそのブログには社員と思わしき人も書き込んでいますが、基本的にはその方の気分が良くなるようなコミュニティが形成されているようです。所詮落書きなので本人に無用な突っ込みはしませんが、しかし、それほどに問題意識があるなら、責任と権限を十二分に持っていた現役時代になぜどうにかしなかったのでしょう。それに社会通念上、現役だろうが OB だろうが、マイクロソフトという名前で今の位置を確保しているのなら、今現在責任を負っている人への影響を配慮した行動をする 「道義的な」 責任があるはず。マイクロソフトが現在の状況に至る過程の一部をご自身が形成したのですし。
おそらく、最初の正義の強い意思を文書して書き連ねていくうちに、賛同やおべっかが加わって意思が増幅されすぎた結果でしょう。マイクロソフトの成長を支えたという自負が、そのようなコミュニティの増幅装置を通して、所有感情のようなものに変わったのかも。たとえるなら、子供を躾けるつもりで叱っているうちに、吐き出した言葉がまた新たな怒りを誘発して、本気で怒りだしている、ようなもの。子供をそんな風に育てたのは自分なのに。当の子供本人にしてみれば、親の日ごろの行動との矛盾だとか、感情の移り変わりが見えてすごく嫌なものです。本件も、出発点が 「親心」 という正義であること、そしてそのコミュニティのリーダーの発言ですから、もちろん逆らう人などいません。程度の差はあれこのようにして、コミュニティの正義と呪縛が深まっていき、外部に対する悪意という形で発散されるようになります。
ブログも掲示板も気軽にアクセスできる場所ですから、利用者は、その場の正義の主観性を考慮しなければなりません。場では合意されている正義、整合性は取れています、いや事実正しいでしょう。しかし、1つの真実に対して、それを示す客観的事実は複数存在します。つまり、歴史認識しかり、真実をリアルタイムに経験していない限り、断片的事実を寄せ集めても真実を正しく推測することなどできないのです。したがって、読み手が情報リテラシーを向上させるしか、真実にたどり着く方法はありません。掲示板などのぞいてみますと、無意味な悪口を書き込むことにやたら時間を費やしていたり、またそれを見て多くの人がそう思っていると勘違いしている人が見受けられたりもしますが、無理に作った枠線の中にひきこもって世間の感覚からずれていかないように気をつけましょう。
※ 本エントリーの内容は筆者個人の見解に基づいており、マイクロソフトの見解を示すものではありません。
ZDNet Japan ホスティング特集
DELL連載第4回 〜「Microsoft System Center」
Techno Exchange
ZDNet Japan Green IT
契約してわかった、iPhoneのさまざまな注意事項
フォトレポート:USIMカードはどこに?--「iPhone」開封の儀
iPhone 3G、発売前夜から祭りのあとまで