「広告モデル」 は巨大市場を作り出すのか?

2008年03月24日 23:35
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マイクロソフト社員だからというわけではなく、ソフトウェアやサービスも含めた 「広告モデル」 と呼ばれる類の無償提供モデルに違和感を持っています。検索広告市場など拡大中であることは知っていますが、価値と対価の流れが不自然な取引は、むしろ時代に逆行しているのではないかという思う次第です。

代表的な広告モデルといえばテレビ番組。以前も取り上げたように、最近地上波テレビ放送のクオリティ低下が気になるのですが、これは広告モデルにおけるプレーヤー (視聴者、スポンサー、放送局) 間のパワー バランスの変化によるのではないかと考えています。確認はしていませんが、ネットの発達やBS、CSの普及などにより選択肢が増え、視聴者が地上波テレビ放送に割く時間が減っているのは間違いないでしょう。少ない放送局で視聴者のプライベートの多くを寡占しているからこそスポンサーに対する交渉力が維持できるのですが、その力の源泉が失われてきています。番組制作費は固定ですから視聴者が減ってもコストは下がりませんし、人口が増えない以上広告は限られた時間というパイを奪いあうしかなく、視聴率を期待できない番組は、制作費を減らしたくなければ、タイアップなどでスポンサーに追加メリットをもたらす必要があります。しかしこの方法では、一時のブームねつ造ぐらいはできたとしても結局長続きはしないでしょう。これは、情報化の進展がもたらした消費者の相対的な地位向上により、テレビ局 (厳密にはそのうち広告機能) という取引仲介者の相対的な地位が低下している表れと言えないでしょうか。

でも私自身、タイアップと分かっていながら旅行番組を見ることはありますし、朝食のついでに報道バラエティを流しっぱなしにもしています。ただこの場合、内容の偏りは覚悟した上で、より詳細な情報を入手するためのきっかけを、コストをかけずに手にしているだけで、内容自体には過大な期待をしていません。ニュースはネットを中心として複数ソースの比較により網羅性とある程度の正確性を担保しつつ、それが難しい独占的な情報は書籍やケーブルテレビなどの有償コンテンツを利用します。たとえばここ数日、フィギュアスケート世界選手権を J-Sports という有料ケーブル放送を契約して見ているのですが、司会者は常に落ち着いた声で演技中だらだらしゃべらないですし、解説者も素人にはわからない技術的なポイントなどを短い言葉で的確に説明してくれ、かなり快適です。海外の放送も見てみましたが (残念ながら英語しかわからないのでカナダとイギリスのみ)、同じように技術解説を確実にしつつ、日本選手たちに対しては、誰にもわかりやすいジャンプなどではなく、スケーティングの質や音楽との同調性などに対して相当高い評価をしており、そのような視点から成熟度を感じさせます。かたや、同じ試合を地上波でもちょっとだけ見てみましたが、あいかわらずアイドル タレントがエモーショナルな発言に終始。司会者は、さすがに以前よりおとなしくなっていましたが、たまに発言したと思えば 「3連続 !!」とか「今期力を注いだステップ !!」とか、もう相当聞きあきた、存在意義のないフレーズを繰り返すのみ。その後のダイジェストではジャンプばっかりを編集。エキシビションでは予想通り、スケートなのに足元写さず顔アップ、スピン中は本人ではなく氷に映る影アップ。何かやらないと気がすまないのでしょうが、サッカーで言うならシュートの瞬間に顔だけ写しているようなもの、工夫する場所を間違えています。無論、最初から期待などしていないのでケーブルで見ていたわけですが、素晴らしいハードウェアを作る技術を持った国のコンテンツ クオリティがこんなにも低いということがとっても恥ずかしい。日本語がマイナー言語であったのがせめてもの救いです。

おっといけない、感情的になって話が横道にそれ始めたので元に戻します。もちろん私のようなスタイルが普遍的だとは思っていませんが、質の高さを期待する専門性の高いコンテンツは有償で、網羅性を期待する、またはエンターテイメントとしての割り切りのもとでの質の低いコンテンツは広告モデルで、という使い分けになっていくのではないかと思うのです。それはテレビ放送に限らず、あらゆる点において。なぜならば、仲介者の存在意義は、消費者や供給者が十分な情報を持っていないことにより高まるものだからです。ネットの普及により消費者が十分な情報を入手可能となり、技術の進展により供給者がダイレクトに消費者とつながることができる時代、あらゆる業種で 「中抜き」 が進んでいきます。したがって広告モデルの成立も、消費者と供給者の直接取引コストを上回らない範囲まで、つまり相当に低い広告単価であるか、代替手段がない場合に限られるでしょう。そして市場の大きさは技術が進展するほど小さくなります。

たとえば検索連動広告。検索連動広告の表示エリアは通常固定されていますので、ユーザーはそれが広告であることは認知済みです。検索連動広告をクリックするのは、よほど自分のニーズに合ったコンテンツがありそうだと思う場合か、検索結果に思わしいコンテンツがヒットしなかったときでしょう。検索精度が向上すると、本当にニーズに合ったコンテンツならば広告エリアに出さなくても検索結果の上位にヒットするはずですし、検索結果がより好ましいものになればなるほど連動広告のクリックは減るはず、つまり検索精度向上によるユーザー数の獲得はスポンサーの利益と相反します。それよりも、検索結果の上位にくる良質なコンテンツそのものに広告を出すほうが効果的でしょう。そりゃそうです、検索サイトはテレビ番組におけるテレビ局ではなく 「番組表」。新聞のテレビ欄の下の広告スペースの市場がどこまでも拡大するなんて思うほうが間違いです。

業種を問わず、市場が成熟すれば、取引は間接から直接に移行するものでしょう。今の状況は単なる過渡期。ソフトウェア含む IT サービスでも、コモディティ化が進み、サブスクリプション型ライセンスが普及してくれば、必要に応じた価値を受け取る代わりに正当な対価を支払う、ごく当たり前の行為が自然に受け入れられていくのではないかと思っています。

米野宏明@マイクロソフト

※ 本エントリーの内容は筆者個人の見解に基づいており、マイクロソフトの見解を示すものではありません。

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プロフィール
米野宏明(Hiroaki Komeno)
マイクロソフトのBI関連製品担当プロダクト マネージャ。慶應義塾大学商学部 卒業後、直接金融時代の到来を予期して証券会社に入社するも、時代が早すぎた ようで3年で挫折、手に職をつけるため一念発起してITベンチャーに転身。デー タベース製品の営業、マーケティング、SEと幅広く経験するも、当該製品の開発 元が買収されたことをきっかけに諸事情あってやむを得ずマイクロソフトに移籍。 チャネルマーケティング、コンサルティング営業を経て現在に至る。経産省認定 テクニカルエンジニア<データベース>。日本CFO協会主任研究委員。
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