今回はテーマとしている「現場からの協働革新」からちょっと離れて、昔お世話になった「理想の上司」について書いてみたいと思います。
僕は、ちょうどバブル華やかなりし頃に大学を卒業し、システム関連の会社に就職しました。学生時代はバンド活動ばかりをやっていたこともあって成績はビリ。良くぞこんな自分を拾ってくださいました、という感じです。
その会社では、ガソリンスタンドで使えるクレジットカードシステムを担当することになりました。もっとも、ソフト開発の経験なんぞまったくない新人ですから、資料をコピーしたり簡単なバッチを流す程度の丁稚として、先輩から怒られつつ、門前の小僧的に少しずつ仕事を覚えていく毎日でした。
今回の主人公はそのときの課長です。仮にAさんとしておきましょう。このA課長、不思議なことに普段仕事をしている姿を見たことがない。工程や予算はその下の主任に任せっぱなし。プロジェクトの進め方にたまに一言言うくらいで、技術的なことを教えてくれるわけでもなく、昼間からおちゃらけてばっかり。夕方になると僕なんかのところに来て、「前川チャン、そろそろ飲みに行こうよ〜」なんて誘ってくる。
早稲田大学出身のA課長の自慢は、在学中に「廊下の曲がり角で吉永小百合とぶつかった」こと(吉永小百合は昭和40年から44年まで第二文学部に在学していた)。飲むたびに聞かされる身にもなってもらいたいもんですが、こんな感じのトボけた優しい人でした。
さて、システムのカットオーバーの日がやってきました。徹夜をしながら動作確認を繰り返してきましたから間違いはないはずなんですが、何となく嫌な予感がする。フタを開けたら見事に的中してしまい、軽油税の計算にほんのわずかなミスがあることが分かって、さぁ大騒ぎです。計算ミスといっても1円程度なのですが、軽油をカードで決済した全国のお客様に詫び状を出すなど、数千万円の損失が出たように記憶しています。
当然、開発チームは全員がパニック。先輩は青ざめた顔をしているし、新人の僕はどうしよう・どうしようという感じでアタフタです。
そんなときにA課長がみんなの前でこう言うのです。「そんなに落ち込むな。一年間にわたって、お前たちは良くやったじゃないか、一所懸命頑張ったじゃないか。人間だから誰にだってミスくらいはある」と。そして「オレがお前たちより高い給料を貰っている理由を知ってるか? こういうときのためにオレがいるんだ」と言う。
このあとのA課長の仕事ぶりは驚くべきものでした。トラブル対応とはかくあるべし、という感じで、情報を集め、的確に開示し、各部署を調整し、関係先へはお詫びに走り回るといったことをすべて一人でこなすのです。おそらくはキツいことも言われたと思いますし、数え切れないくらい頭を下げたのではないでしょうか。対応を間違えればトラブルがトラブルを呼び込んで会社全体のイメージを悪くしてしまいますし、そもそもリスクマネージメントなどという考え方がない時代です。でも最終的にはA課長の頑張りもあって、大問題に発展することはありませんでした。
A課長がそれまでのキャリアの中でどのようにしてそういうマネージメントスキルを身に付けたのかは分かりません。部下に細かいことを教える人ではありませんでしたから。しかし課長の後姿を見て、上司というのはこういう役割を果たさなければならないのか、という強烈な印象をチームの全員が抱いたのは事実です。自分がマネージャとなった今、A課長の“大きさ”をあらためて実感する毎日です。
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