昨年はあの豪快な役員に続き相談役も退任された。あのモヒカン頭にねぎらいの言葉を掛けてくれた人です。ある日、秘書のイムラちゃんから「相談役がお呼びです。」と内線が入った。突然「お呼びです。」なんて言われたら叱られそーな予感がいっぱいします。「八木さん、私、そーゆーの全然平気ですよ。凛としてりゃ〜いいんですよ、凛と。」ってボクに言わないで下さい。自分の肝の小ささに落ち込みます・・・えっ、誰もそんなこと言ってないって?・・・そーか、勝手に想像が膨らんで一人で緊張してるのか。まいどのことだが、そんな自分にぐったりしちゃう。
ノートとペンは必需品。今やってる事を説明できるような資料をかき集め、げんかつぎの靴磨きをしてから上着を羽織って最上階に上がった。エレベータを降りるとイムラちゃんが待っていた。「相談役がお待ちです。」イムラちゃんは何も悪くありません。心拍数が一気に3倍に跳ね上がった。
部屋に入ると「ま、座りなさい。」と手のひらを椅子に差し向けた。この椅子が被告人席になるんじゃないかと本気で恐ろしかった。最近の状況を聞かれたのでできるだけ手短に説明すると「私は相談役なのだから、いつでも相談しに来なさい。」とあの時と同じように暖かい言葉を掛けられまた感動した。
少し緊張がほぐれたとき、死角から質問が飛んできた。「八木くん、きみはゴルフはやらんのか?」・・・たしかあの豪快な役員の場合は、この手の質問は例外なくひっかけだった・・・うっ、また正念場がやってくるのか・・・。答え方と質問の意図次第だが「面白くない奴だ。」とか、「オレの誘いを断ったな。」とか、「それは宗教上の理由か?」とか無数のパターンの可能性が頭をよぎった。
たぶんボクの顔が、酸っぱ苦しい顔をしてたんだと思う。相談役は私を見抜いて「ゴルフなんぞ、やらんほうがいいぞ。八木くん。」と助け舟を出してくれた。今、思えば、単に普通の会話をしながらボクの価値観を知ろうとしてくれていただけの様な気がする。
緊張がだいぶ和らいだので、突然できた会話の隙間をボクが埋めることにした。後ろの壁に掛けられた「凛」という書が目に入ったので、ボクは「この書はどなたの書ですか?」とお尋ねした。今ではこの書に相談役との思い出が詰まっている。(つづく)
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