■戦略はサイエンスか
私は学卒で戦略コンサルティングファームに入った。大学で経営学を学んでいた私としては「これこそが天職」とばかりに心躍った。そこはロジックが全てを支配する世界。ファクトを集め、ロジックを使って分析し、プランを立てれば企業として取るべき戦略が立案される。企業はあとはそれに従えば良い。大手企業に戦略を立案して高い報酬をもらうその仕事は、まさに「戦略とはサイエンス」を具現化していた。
2000年のドットコムバブル時に多くのコンサルタントは起業した(そして多くは失敗した)。私もこの流れにおくれまじと、当時の先輩と一緒にリアルコムの創立に参画した。コンサルタントが書くビジネスプランには直ぐにベンチャーキャピタルが集まり、資金は調達できた。あとは戦略どおりに進めて大成功・・・のはずだった。

が、しかし。戦略はサイエンスではなかった。
当時、我々が立てたビジネスプランは「Kスクエア」というコンシュマー向けサイトであった。「Kスクエア」はいわば知識のオーションサイト。弁護士や医者などの専門家に質問をし回答をもらう。そしてその対価として100円〜数千円程度の対価を払う。我々はヤフオクやE-bayのようにその取引の口銭をはねる。Amazonのように倉庫や物流も不要。一旦好循環がまわればどんどん儲かり、他社の参入できない。ビジネスプランとしては完璧だった。今考えても我ながら秀逸なプランだったと思う。でも、うまくいかなかった。経営はそんなに甘くなかった。
ところが、そんな折にとある総合商社の方が「このKスクエアの仕組みって面白いね。うちの会社の中で知識のオークションやってみたらいいんじゃない?」と声がかかったのが、リアルコムの転換点であった。そのあとは、その総合商社のためにがむしゃらに頑張った。そのあとも他のエンタープライズのお客様のために走り続けた。今で言うITコンシュマライゼーションか、それこそエンタープライズ2.0なのかもしれない。でも当時はそんな高尚なことは考えなかった。立ち止まることは死を意味する。とにかく走り続けた。
■戦略はあしあと
そして今。
振り返れば、創立から7年経った。200社を超える沢山のお客様のお陰で社員も70人を超え、米国にも現地法人を作った。ポータルやコラボレーションソフトウェアの市場でも国内のリーディングベンダーとしての評価を頂くまでになった。しかしそれは、当初立てた戦略ではない。もちろん「こんな世界を実現したい」という大きなビジョンはあった。そのビジョンに向けてがむしゃらに走ってここまできた。戦略とは振り返ったら見えたあしあとなのである。
ドットコムバブルの時に数え切れない程のベンチャー企業が作られたが、その多くは今はない。彼らが当初立てた戦略が間違っていたのか。いや、そうではない。環境の変化に臨機応変に対応できなかったのである。Googleも設立当初は検索技術は優れていたが全く儲かっていなかった。他のサイトに検索技術を販売するビジネスモデルしか考えていなかったからである。調達した資金を燃やし続ける日々が続いていた。がむしゃらに走り続けている間に、Overtureが関連性広告を考え出した。がむしゃらに真似をしてサービス提供したら、世界最大の広告代理店になることができた。最初から広告代理店になるつもりだったわけではないのだ。

戦略はサイエンスではない。戦略とはビジョンに向けてがむしゃらに走ってきたあしあとである。そして、環境の変化に臨機応変に対応し、チャンスを逃さずつかみ、リスクをぎりぎりのところで避けることができる企業だけが生き残る。
それが、戦略コンサルタントを辞めてビジネスをはじめてわかった最も大事なことである。
2.0時代の今、企業に求められているのはサイエンスではなく、あしあとなのだ。そして、優れたあしあとを残せる企業になれるかどうかが、エンタープライズ2.0の最も重要なテーマである。
吉田健一@リアルコム
吉田健一(Kenichi Yoshida)
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